【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
『丹波さん、今とっても大変ですよね?私がその集計やっておきますよ!』
『あ、その資料データの分析も任せてください!』
『私、もっと丹波さんの力になりたいんです』
そう言って集めていた資料を持って行ったのは恩田だった。
「(まさか、それを全部悠里ちゃんに横流ししてたってこと?)」
ずっとおかしいと思っていた。
ここ一週間、まだ入社して一ヶ月も経っていない悠里が家に持ち帰らなければならないほどの仕事を振られているのは普通じゃないとわかっていた。
けれど、彼女があまりに優秀だから頼られているのではないかとも思っていた。
ましてや一時的な多忙を乗り越えた先には昇給や希望する部署に異動も叶うのではないか、などという理人なりの考えもあったせいで、一緒にうどんを食べたあの日も深くまで追求はしなかった。
それを今、理人はとことん後悔している。
怒りと、焦りと不安、それから自分の不甲斐なさに言い表せられない感情が理人の中で渦巻いていく。
そしてそれらを悟られないようにゆっくりと悠里のパソコンを閉じたとき、『恩田さん、締切明日午前まで』と書かれたメモを見つけた瞬間、これまでに感じたことのないほどの怒りを覚えた。
それは決して『王子様』が持つことのないであろう、冷たくて鋭い怒りだった。
理人はそのメモをグシャリと手の中で握りつぶしながら、総務部をあとにした。