【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。






 理人と再会してからというもの、彼の優しさあふれる言葉に何度も救われてきた悠里にとって、久々に感じるこの悪意に満ちた裕一のそれらに、眩暈がした。



 「ほら、こんな会社辞めてしまいなよ」

 「……」

 「今、総務部で働いているんだって?大したポストでもないし、うちに戻っておいでよ。また雇ってもらえるよう計らってあげるから」




 言葉の節々から伝わってくる悠里を見下した発言に、悔しさと、惨めさと、怒りでどうしようもなくなる。

 無意識に握りしめていた手は爪が食い込むほど力強く震えていた。




 「(絶対に、泣くもんか……っ)」

 こんな人に涙なんか見せたくない。

 悠里は顔を上げて真っ直ぐに裕一を睨みつけた。



 今までの悠里ならここで心を折られていた。

 自己嫌悪に陥り、裕一の言葉に心を抉られて泣いていたに違いない。


 けれど、ここまで彼女を強くしたのは理人のおかげだった。



 〝悠里ちゃんはちゃんと自分の足で立ちあがろうとして、転職もして、えらいと思う〟

 〝よく乗り越えたね。悠里ちゃんは強い人なんだね〟



 どんな時も悠里自身を褒めて、認めてくれる。

 自分はこんなふうに踏み躙られていい存在ではないのだと、理人の数々の言葉や思いや、行為が悠里を強くした。




 「触らないで」

 握られていた腕を思いきり跳ねのけた。



< 59 / 125 >

この作品をシェア

pagetop