【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
いつもならここで優しい言葉をかければ思い通りになっていたはずの悠里が、初めて反抗的な態度を見せたことによって、裕一は頬を引き攣らせながら驚いた。
「愛人になれだなんて、ふざけてるの?」
「……悠里?」
「裕一さんはどこまで私を下に見て馬鹿にすれば気が済むの?」
「そんなつもりはないよ?ただ悠里のことが心配なだけさ」
「心配に思う人の職場に突然やってきたり、大したポストについていないから辞めろとか、愛人になれとか、そんなこと言うの?」
いつだって裕一は自分勝手な人だった。
こちらの都合はどうだっていい、自分の空いた時間に、自分の気分で、自分の言いたいことだけを述べる。
それが罷り通るだけの社会的地位があるのだとしても、好き同士で付き合っていたはずの相手にしていいことではない。
思えば裕一と付き合い出したころから、二人の間には恋人関係であるまでにしっかりとした上下関係が出来上がっていた。
「ちょっと見ないうちに、生意気になったね。悠里」
「……っ」
低く、怒りを孕んだ声。
今まではそれが怖くてたまらなかった。
仕事でミスをしたとき、手を滑らせて洗い物のコップを割ってしまったとき、忙しさのあまり行き届かなかった家の掃除を指摘されたとき、裕一はいつもこの声のトーンで悠里を責めた。
「僕にそんな口を聞く子じゃなかったはずなのに」
裕一はギリッと力任せに、悠里の細い腕を掴み上げた。
「痛っ……、離して!」
「ここだとゆっくりできないから、とりあえず車に乗って続きを話そうね」
「いやっ、私はこれから……仕事なの」
「一日くらい休んだってどうってことないだろう?僕だってわざわざ悠里に会いに有給を使ってるんだし」