【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。





 人目を気にしている裕一は、笑顔を貼り付けたまま悠里を力ずくで自分の車へと引っ張っていく。



 「(嫌だ、怖い、誰か──……)」

 「──悠里ちゃん?」




 ギュッと目を瞑って、瞼の裏で思い浮かべた人の声が耳に届いた。

 その声に、裕一の動きがピタリと止まる。





 「……理人、くん」

 ピンチのときにいつも救い出してくれる、世界で一番安心できる優しい声。



 助けを求めるように声のほうへ目を向けると、そこには理人の姿があった。

 理人は他社との打ち合わせで外へ出てきたときにたまたま見かけた彼女の後ろ姿に、最初こそ様子を伺うように歩み寄ってきていたけれど、涙目で怯える悠里の表情と、ガッチリと絡め取られた両腕を視界に捉えた途端、その穏やかな空気を一変させた。




 「その手を離してください」

 普段家で見せる温和な雰囲気とはまったく違う、まるで別人のような理人は、裕一の腕を持ち上げて悠里から引き剥がした。



 「……強引な方ですね、誰ですかあなた?」

 「警察を呼びますよ。それとうちの警備員も」


 理人は咄嗟に二人の間に割って入るように裕一と向かい合いながら、そっと自分の背中に悠里を隠した。





 「嫌だなぁ、僕はそこにいる彼女の彼氏ですよ?」

 「……彼氏?」

 「えぇ。なのでこちらの問題に他人が入ってこないでもらえるかな?」



 裕一のその厚顔無恥な言葉に、悠里は息を呑んだ。

 出世のために自ら別の女性を選んで捨てておきながら、どうして平然とそんな嘘が出てくるのか理解に苦しむ。





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