【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
「そうはお見受けできませんでした。ご覧になってください、出社されている皆さんも相当不審がってこちらを見ていますが」
「……っ」
「これ以上騒ぎにしたくないのであれば、お帰りください」
けれど理人は声を荒げることをせず、ただ淡々と対応していく。
彼の大きな背中に庇われながら、悠里は震える手で自分の胸元をぎゅっと握りしめた。
普段は決して怒ることなどしない彼が、今、こんなにも盾になって自分を守ろうとしてくれている。その事実が痛いほど嬉しかった。
「仕方ないですね。とんだ誤解ですが、ここはあなたの顔を立てて言うとおりにしましょう」
「ご理解いただけたようで何よりです。今後はこういった迷惑行為は控えてくださいね。このことは念の為警備の者に報告しておきますので」
「えぇ、お好きにどうぞ?あ、そうだあなたの名刺をいただいておいても?」
「名刺、ですか」
「他人の痴話喧嘩に首を突っ込んでくるような方の名前をこちらも把握しておきたいのでね?後でそちらの上司にも『報告』させてもらいますね」
「ええ、構いませんよ。ぜひ交換しましょう」
これ見よがしに勝ち誇ったような笑みを浮かべる裕一に、理人は一切怯むことなく内ポケットから名刺入れを取り出した。
「企画経営部、ねぇ。これはこれは、さぞかしエリートなんですねぇ」
「では急いでおりますので、僕たちはこれで失礼します」
理人の名刺をひらひらと仰ぎながら、役職のついていないことを鼻で笑う裕一に構うことなく、理人は悠里を連れて会社のビルへ入っていく。
『東洋フードテクノ株式会社 第一営業部 部長 玉木裕一』
これが裕一の今の肩書きだった。