【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
「ごめんね、理人くん。裕一さん、もしかしたらうちの会社にあることないこと文句言ってくるかもしれない。そのために名刺交換したと思うの。そしたらまた理人くんに……また迷惑かけてしまう」
「……」
「だからもし何か言われたら全部私のせいだって言ってほしい。なんなら私、裕一さんにそんなことしないでってちゃんと言ってくるから……」
「──ダメだよ、悠里ちゃん。もうあいつには会わないで」
悠里の言葉に被せるように、語尾を強くした理人の声が遮った。
いつもならすぐに顔を真っ赤にさせて隠れようとする理人が、そのときだけはしっかりと悠里の目を見てそう言った。
「それにね、こんなこと言ったらまた部長に怒られちゃうかもだけど、俺は別に肩書きとか出世とか、どうでもいいんだよね。ただ今の仕事が面白いから頑張れてるだけっていうか。……だから悠里ちゃんはそんなこと気にしないで?」
「理人くん……」
先ほどの緊張を解きほぐすようにふわりと優しい笑みを浮かべる理人。
肩書きに固執して、出世のために平気で悠里を捨てた裕一とはまるで正反対の言葉だった。
「あとね、俺仕事だけは一生懸命やってきたつもりだから。多分これくらいのことでクビになったりはしないと思うから、安心して?」
少しでも悠里を元気づけようとわざと明るく振る舞う理人は、「あ、ちょっと待っててね」と言ってカフェテリアのカウンターであたたかい缶コーヒーを買って悠里に手渡した。
「理人くん、これ……」
「じゃあ、俺そろそろ行くね。また帰りに総務のフロアに寄るね……って、そんなことしたら前みたいになっちゃうから、ロビーで待ち合わせよう!」
そう言って足早に打ち合わせへと向かっていく理人の背中を見つめながら、悠里はゆっくりと自分の手の中に視線を落とした。
冬の冷たい風に晒されてすっかり強張っていた悠里の指先を、理人から受け取った缶コーヒーがじんわりとした心地よい熱が溶かしていく。
昔から悠里が好んで飲んでいた小さなカフェラテの缶コーヒー。
その見慣れた赤いパッケージのロゴを目にした瞬間、悠里の胸の奥がキュッと締め付けられた。
「(これって……)」
それはかつて、二人が高校時代に付き合っていたとき、理人が最初に悠里にプレゼントしてくれたものだった。