【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
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「……さて、と」
本格的な冬を迎えた十二月はかなり冷え込んでいる。
暖房の効いていない冷たい手洗い場で、理人はネクタイを締め直しながら鏡に映る自分を見つめていた。
理人が初めてネクタイを首に通したのは、大学の入学式のときだった。
あのときはまったく上手くできなくて、三歳年上の兄に揶揄われながら綺麗に仕立ててもらったことを思い出す。
「お、丹波君お疲れ様」
「部長、お疲れ様です」
「これから機械導入のプレゼンだよね?今日も長丁場になるだろうから、一緒に頑張ろうね。あ、僕エナジードリンク持ってるけどあとで一本渡そうか?」
「……部長、まだあれ飲んでいたんですか?体、壊しますよ?」
「ハハッ!でもコンペ中に眠ってしまったらよくないだろう?僕も定年までは踏ん張らないと、だからねぇ」
「せめてコーヒーにしてください。いつでも淹れてあげますから」
「優しいねぇ、丹波君は」
理人が所属している経営企画部の阿部部長は、物腰が柔らかくて穏やかな人だと有名だ。
若いころは理人と同じように何本も大きなプロジェクトを企画し、その都度大成功を収めてきた四ツ谷食品の立役者の一人となっている。
「今日は丹波君に決定権を渡すつもりだから、しっかりよろしく頼むよ」
「……はい、任せてください」