【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
相手の肩書きしか見ていない裕一は、事前に配られていたコンペの審査員名簿でも「部長クラス」の名前しかチェックしていなかった。
だからこそ、あのとき悠里のことを助けに入った理人と名刺交換をしたときも、彼が今回のプロジェクトの実行責任者であることに気づいていなかった。
まずいと思った裕一は、理人を飛び越えてさらに上座に座る企画経営部の阿部部長の元へと直談判に出た。
「阿部部長、現場の意見も聞かず、こんな若手の独断で切られるのはいささか納得がいきませんよ?」
けれど、阿部は表情一つ変えずにコーヒーを一口啜り、そっと玉木と視線を合わせる。
「玉木部長。わたしはこの件をすべて丹波に任せておりますし、彼の判断が弊社の総意です」
「なっ……!」
「それに、他社を貶めて自社を誇張するようなやり方だけがプレゼンの仕方ではないということを部下に教えてやるのが、我々部長の努めではないですか?」
「……っ」
穏やかな阿部の言葉にぐうの音も出ない正論で一蹴された裕一は、頬をピクリと痙攣らせながらその場を後にする。
今日の全日程を終えた部長や他の社員たちが「お疲れ様でした」と言って次々に退室していく中、理人だけは毎回最後まで残って会議室を片付けてから出ていく。
残された飲み物や資料の残骸を集めながら、理人は自分の心の中に宿る感情の変化に驚いていた。
「(悠里ちゃんと出会ってから、らしくないことばっかしちゃってる気がする……)」
営業部の高元が悠里の手を掴んでいるのを見かけた瞬間、自分でも驚くほどの低い声でそれを阻止したり、彼女の元彼でえあると一緒にいるところを見ただけで間に割って入ってしまうようなことは今まで一度もなかった。
悠里の涙を浮かべたあの顔を見た瞬間、理人は人生で初めて心の底から湧き起こる怒りを感じていた。
「(やばいな、悠里ちゃんと再会してから自分がコントロールできなくなってる)」