【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
ふと自嘲気味に息を吐いたそのとき、バンッと大きな音を立てて乱暴に会議室のドアが開け放たれた。
振り返ると、そこには怒りを隠しきれていない様子の裕一が立っていた。
一度は退室したものの、どうしても理人への苛立ちが抑えきれずに戻って来たのだろう。
「……お疲れ様です。まだ何か用ですか?」
「まさか、君がこんなところで私情を持ち出してくるような男だったとはね」
玉木はネクタイをグイッと緩めながら、理人を睨みつけた。
「なに、君ってば悠里のことがそんなに好きなわけ?」
「……」
「でも残念。あの女は僕が一から育てたんだよ?最初は本当に何もできない子でね?」
「……」
「だからこの僕が手取り足取り、すべて一から教え込んであげたんだよ。仕事のことも……それ以外のことも、ね?」
その言葉を聞いた瞬間、理人の瞳からスッと光が消え去っていく。
今まで誰にも見せたことのない表情だった。そしてきっと、これから先誰にも見せたくないものでもあった。
「彼女がここまで仕事をこなせる女性になれたのは、他の誰でもない彼女自身の努力のおかげです。決してあなたの功績じゃない」
「負け惜しみですか?」
「そんなことも理解されないような方が部長クラスになられているとは驚きです。僕は今、心底自分の上司が阿部部長でよかったと思っています」
「……っ!」
「まぁ、そもそもご自身のお力だけでその場に立てていないような方に何を言われたところで無意味ですけどね?」
「お前……!」
「話は以上ですか?用がお済みでしたらご退席ください」
拙い煽りに動じるほど理人は子供ではない。
ただ、それでも心の奥底では煮え繰り返るほどの怒りをどうにか封じ込めていた。
〝だからこの僕が手取り足取り、すべて一から教え込んであげたんだよ。仕事のことも……それ以外のことも、ね?〟
悠里と裕一が恋人同士で、前職でも上司と部下の関係にあったことは誰にも変えられない事実だ。
それが悪いことだとは言わない。
悠里の過去がなければ、こうして自分と再び出会うこともなかったのだからと理人もきちんと理解している。