【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
とっくに誰もいないと思っていた室内に、裕一の姿を見つけた瞬間。悠里の華奢な肩がビクッと跳ね、その顔から血の気が引いていくのが理人の目にもはっきりとわかった。
そんな悠里を見た理人は慌てて駆け寄ろうとしたとき、一目散に飛び出していったのは裕一だった。
悠里の怯える表情を見て、裕一は両方の口角を上げて微笑んだ。
悠里はまだ自分に怯えている。彼女はまだ自分の支配下にあるのだと。
「お疲れ、悠里」
「……っ」
「ちょうどいいところに来たね。今日は二人で一緒に帰ろう」
「……」
「イタリアンのいい店があるんだ。悠里は昔からパスタばかり食べていたよね?僕が奢るから心配しなくていいからね」
理人に見せつけるように悠里の肩を抱き寄せて、この場から去ろうとする。
けれど、悠里はその場から一歩も動かなかった。
「……離してください」
「悠里?」
「私とあなたはもう他人です。こんなふうに触れられたくありません」
「な、何を言って……」
「もう二度と、私の前に現れないでください」
悠里が自分の意志で、自分の過去を完全に断ち切った瞬間だった。
これまで目を合わせることさえできず、裕一の一言一句に怯えていた今までの悠里の姿はどこにもない。
毅然とした態度の悠里にはっきりと拒絶を示された裕一は、敗北を認めるかのように顔を歪に痙攣らせた。