【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
「ただいま……って、あれ?悠里ちゃん?」
それからしばらくして、理人が帰宅した。
彼が帰ってきた音にすら気づかなかった悠里は、その声にビクッと肩を跳ねさせた。
明かりがついていないリビングの中で、冷たいフローリングの上で座っている悠里の姿を見て、理人は慌てて電気のスイッチをオンにする。
パッと部屋が明るくなった瞬間、悠里の周りに散らばっている大量の間取り図を目にした理人は、手に持っていた鞄を落とした。
「悠里、ちゃん?なに、してるの?」
今にも消え入りそうな細い声だった。
「わっ、理人くんおかえりなさい!あ、散らかしちゃってごめんね!すぐご飯の用意するね」
気づかないうちにこんなにも時間が経っていたのかと焦る悠里は、慌てて賃貸の資料をかき集めて一つにまとめる。
そして急いで立ち上がって夕食の準備に取り掛かろうとしたそのとき。
ふわりと香る、理人の匂い。
それと同時に、理人は悠里の目の前に歩み寄って視線を揃えた。
「理人くん?」
「……悠里ちゃん、何かあった?それともまたあいつが何かしてきたの?変なメッセージ送って来たとか?」
矢継ぎ早にそう言った理人の表情は、心の底から悠里を心配しているようだった。
最近の理人はいつだって今みたいに眉を垂らして悠里を心配ばかりするようになっていた。
特に裕一との一件でどれだけ迷惑をかけてしまっただろう。本来ならばしなくていい仕事をさせてしまったり、悠里と出会わなければこんな表情をさせることもなかったはずだ。
そう考えると、悠里はやっぱり一刻も早く理人のそばから離れなければならないのだと確信した。
「ううん、何にもないよ!理人くんってば、心配しすぎだよ!」
「でも」
「私ね、もう本当に大丈夫だよ?この前だってちゃんと自分の口から裕一さんにお別れを言えたし、二度と近づかないでって釘もさせた。少しは成長できたなって思うんだ」
「……」
「これも全部、理人くんのおかげだよ。本当に感謝してもしきれないくらい。だからね?あとはちゃんと自分で家を探して、理人くんにこれ以上迷惑かけないようにしなきゃって思って」