【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
〝いつ理人くんが私の前からいなくなっても、傷つかないように──〟
言葉にできなかった最後の本音。
背後に隠していた不動産情報の間取り図を、クシャリと強く握り潰した。
「迷惑なんて思ったこと、一度もないよ」
少しの間を空けてから、理人の言葉がストンと落ちた。
「今まで悠里ちゃんのことで迷惑に思ったことなんか一回もない」
「もう、理人くんは優しすぎるよ」
「君と会社の会議室で再会したあの日から、俺はずっと夢見たいに幸せな時間を過ごしてる」
「……っ」
「俺がどれだけこうしてもう一度悠里ちゃんの前に立ちたかったか、どれだけその笑顔が見たかったか、どれだけ一緒にいたかったか……」
だんだんと語尾が薄れていく理人のその言葉に、どれほどの重みが乗っているのか、悠里には検討もつかない。
そして少しずつ悠里から視線を逸らして俯いていく理人を見て、悠里はわざと明るく振る舞った。
「も、もう!理人君は私のこと甘やかしすぎだよ!」
「……」
「そんなんじゃ私、理人くんに迷惑かけっぱなしになっちゃうよ?」
つらつらと元気を装う悠里の腕を引いて、理人はトンと自分の胸元へ彼女を引き寄せた。
「──好きだよ、悠里ちゃん」
「え……?」
理人はそのまま縋るように悠里の肩に顔を埋めた。
表情は見えない。けれど、彼が今どれほど切羽詰まっているのか、耳元で震える荒い呼吸から痛いほど伝わってくる。
「もっといっぱい迷惑かけて。もっとたくさん俺を頼って……俺に甘えてよ」
「理人、くん?」
滅多に自分の話をしない理人が、今日だけは微かに手を振るわせながらこれまでの思いを悠里に告げていく。
「あのとき一生分の勇気を振り絞って告白した高校生だったころから、今日までずっと悠里ちゃんのことが好きだった」
「そんなっ」
「せっかく悠里ちゃんの隣にいる権利をもらえたのに。当時の俺はただ舞い上がって、空回りして、君にふさわしい男になれない自分が不甲斐なくて、勝手に自己嫌悪に陥って、一番大切な君を失ってしまった」
「……!」
「そのことを、この十年間……毎日後悔してた」