【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
そして迎えた、土曜日。
駐車場に向かいながら、悠里は理人の車の鍵をちらりと見つめて口を開いた。
「あ、今日は私が運転しようか?」
「えっ、なんで!?これ、運転してみたい?」
「だっていつも理人くんが運転してくれてるでしょ?ご飯行くときも運転するからお酒飲めてないし、たまには交代して羽伸ばしてもらいたいなって思って」
裕一と付き合っていたころ、休日に出かけるときは決まって悠里が運転席に座らされていた。それは仕事のときと同じで、裕一が後部座席に座るか、助手席に座るくらいの違いしかなかった。
理人は悠里の何気ない気遣いに驚いたように目を丸くしたあと、ふわりと優しい微笑みを浮かべた。
「……そんなの、気にしなくていいんだよ。悠里ちゃん」
「でも」
「俺は別にお酒が飲みたくて悠里ちゃんと一緒に出かけてるわけじゃないから」
「本当に?でも運転って疲れるでしょ?特に今日は高速乗るんだし……」
「正直、悠里ちゃんが隣に乗ってくれてるってだけでものすごいご褒美っていうか……疲れなんて皆無っていうか」
理人はそう言うと、みるみるうちに耳まで真っ赤に染めあげて、恥ずかしさに耐えきれなくなったのか車のルーフにゴツンと額を押し当てた。
「また出た、理人くん顔真っ赤だよ!」
「ごめん!だって、その、今日の悠里ちゃん……いつもより可愛すぎてちょっと、直視できない……本当ごめん」
「……ぶっ!何それ!」
理人の中ではいったいどんなフィルターがかかっているのか、悠里は気になって仕方がない。
メイクをすれば可愛い、パジャマ姿を見ても可愛い、スッピンを見ても悠里が恥ずかしがるよりも先になぜか理人のほうが照れて部屋の隅に隠れてしまう始末だ。
「と、とりあえず出発しよう!朝イチでイルカショーの整理券取らなきゃ、だからね」
「じゃあ、今日も運転ありがとうね」
「……!」
「それから、今日の理人くんも格好いいよ」
「ゆ、悠里ちゃんそれはダメだよ反則……。俺、事故しちゃうよ!?」
「だからなんで!?」
悠里のその一言に、背筋をピンと立ててカチコチになりながら両手でハンドルを持って運転する理人を見て、悠里はまた笑った。
顔を赤くするたびに理人はそれを隠そうとするけれど、悠里は密かにそんな理人のことが愛おしいと思うようになっていた。