【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
真っ直ぐな理人の言葉が、車内に響いた。
普段の理人は悠里と目を合わすと照れてすぐに逸らしてしまうのに、彼女のことを語るときはいつだって真剣な眼差しで視線を合わしながら言葉を紡ぐ。
「だって悠里ちゃん、前の会社では役員秘書としてすごく頑張って働いていたでしょ?今だって、この会社に中途採用で受かるなんてすごいことだし、入社したてで総務のピンチを一人で救ってた。あのとき俺、やっぱり悠里ちゃんはすごいんだなぁってつくづく思ったよ?」
「そんなこと……」
「それに、今だって新しい資格取ろうとしてるし、すごい努力家でしょ?二人の家だっていつも綺麗にしてくれるし、料理だってすごく美味しい」
「……っ」
「俺、今が人生で一番幸せだよ?それってもう百パーセント、悠里ちゃんのおかげ」
「理人くんって、褒め上手だね」
悠里本人でも気づかなかったようなことを、理人は一つ一つ並べて、それらをすべて愛おしそうに語っていく。
その視線も、包み込むように触れている手も、言葉も、理人のすべてから悠里への愛が溢れている。
「あのね、悠里ちゃん。何か大きなことを成し遂げたり、すごい功績を残した人だけが偉いんじゃないんだよ?」
「え?」
「俺は悠里ちゃんがどれだけすごい人か誰よりも知ってる。悠里ちゃんが笑うと周りまで明るくなるし、必死な姿を見てると俺も頑張らなきゃって勇気もらえるし」
「本当に?」
「本当だよ!……だからね、俺はいつだってヒヤヒヤしてるんだよ。悠里ちゃんのその魅力にいつか他の男が気づいて、取られてしまうんじゃないかって」
理人の嘘偽りのない肯定の言葉に、悠里は胸の奥に痞えていた冷たい何かがじんわりと溶けていくのを感じた。
「……ふふっ、そんなことないのに。でも、ありがとう理人くん。なんかすごく元気になれた」
照れ隠しに笑うと、理人は悠里の手を握ったまま、どこか切なそうに目を伏せた。
「だから俺は、今度こそ悠里ちゃんがずっと隣にいてくれるように頑張るよ。──もう、この手は離してあげられないから」
理人は指と指を絡ませてでギュッと力を込めると、そのまま悠里の手を持ち上げて、自分のくちびるにそっと当てがう。
手の甲に触れる柔らかなくちびるの感触と、熱を持った吐息に、悠里の心臓は爆発しそうなほどドキドキと激しい音を鳴らした。
「……あ、やばい。青信号だ」
理人は誤魔化すようにパッと手を離すと、耳まで真っ赤に染めたまま前を向いて静かに車を発進させた。
横顔に隠しきれない照れた表情を浮かべた理人を見つめながら、悠里はこの人ともう一度再会できて本当によかったと、心の底から思っていた。