【1話からの長編大賞用】冴えなかった元彼が、王子様に変身して帰ってきた。
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「──あ、王子じゃん!」
会議室を出てすぐ、パソコンや大量の資料を抱えながら足早に戻ろうとしていた理人の元に、真紀子たちが声をかけた。
何かと声をかけられやすい理人は、急いでいるときは決まって足を止めずにニッコリと笑顔を見せながら「お疲れ様です」と言ってその場を凌ぐことが多い。
けれど、背後から聞こえてきたその声にピタリと動きを止めて振り返った。
「総務の仁科さんに佐藤さん、それから夏河さんも。お疲れ様です、今帰りですか?」
理人が積極的に歩み寄りながら挨拶を交わしたのは、彼女たちが悠里と同じ総務部の人だったからだ。
そもそも理人が駆け足で廊下を渡っていた理由は、このまま総務のフロアへ顔を覗かせに行くためだった。
今日は金曜日。悠里が仕事終わりに友人と飲み会に行くと言っていた日だ。
あの日、理人は悠里の小さな嘘に気づいていた。
「(悠里ちゃん、何かあるとすぐ左右に目が泳いじゃう癖があるんだよね……)」
なにかあったのかと聞き出そうとしたけれど、あのとき理人はグッと口を噤んだ。
悠里が浮気ややましいことをする人だとは微塵も思っていないし、もしかすると自分には言いたくないことがあるのかもしれない。
「(だからせめて、送り迎えだけでもさせてくれないか聞きに行きたかったんだけど……)」
「そう、ウチらは今から帰るところだよ〜」
「王子は?まだ仕事あるの?もう定時だっていうのに、経営企画部はやっぱり忙しんだねぇ」
「そりゃあこの会社随一のエリート部署だもん。忙しいに決まってるよねぇ」
「そんな……!忙しいのは皆さん一緒ですよ。僕は今会議が終わったところです。このまま帰ろうか、もう少し残ろうか迷っているところでした。あの、ところで──……」
〝奥畑さんは今どちらにいるかわかりますか?〟
大抵、いつも真紀子たちと一緒にいる悠里の姿が見えない。
理人が悠里の居場所を聞き出そうとしたときだった。
「あ!待って、あたし王子が何聞きたいかわかった!」
「……あたしも」
「私も、多分わかる気がする」
ビシッと理人の前に手を伸ばして、ストップをかけた真紀子は、小さく「せーの!」と言って声を揃えた。
「「「奥畑ちゃんのことでしょ!」」」
真紀子たち先輩組が見事言い当てたことを喜び合っているその横で、理人はどうしてわかったのかと驚きを隠せずにいる。
すると真紀子は理人を肘でチョンチョンと突きながら、一段とニヤついた表情を浮かべた。
「ちょっとちょっと、王子ってば奥畑ちゃんのこと狙ってるでしょ〜?」
「えっ!?あ、あの、どうして……!」
いきなり図星を突かれた理人は顔を真っ赤にして狼狽えた。
いつもの完璧なエリート王子の仮面が少しずつ剥がされていく。
そんな理人を見て、真紀子たちはさらに楽しそうに笑い声をあげる。
「ブハッ!いつもわかりやすすぎるから〜!」
「あたし達のオバちゃん観察眼をなめんじゃないわよ〜?王子ってば奥畑ちゃんが総務にきてから、やったらめったらウチの部署に顔出すようになったでしょ?」
「ってか、王子は普通にしてるつもりかもしれないけど、君ってば毎回奥畑ちゃんのこと見過ぎだから!」
「……!?」