聖女の力を搾取されて使い捨てられた元聖女は、辺境地へ国外追放されて冷酷聖騎士に溺愛されながら運命愛に導かれました
 麗らかな日差しと優しいそよ風を感じる穏やかな午後。
 天気とは真逆の雰囲気をさせているマリーたちのテーブル。
 注文したアフタヌーンティーが運ばれてからは終始無言で時が過ぎていく。
 ウィラルドとレユスットの二人は無言で紅茶を飲み、スイーツを食べ進める。
 ヘレナは気まずそうに三人の様子を伺いながらガトーショコラを削るように食べている。
 マリーは紅茶やタルトに手をつけられず、俯いたままでいる。
 数分が経ち、沈黙を破ったのはレユスットの質問だった。
 「ところで、なぜアンナはマリーと呼ばれているんだい?」
 レユスットは白い手袋を付けた手でティーカップを取り、紅茶を一口飲む。
 「マリーは本名だ。誰かのせいで聖女を辞めて、現在は本名のマリーを使用している」
 レユスットはマリーに質問をしたが、代わりにウィラルドが答えた。
 「誰かのせいとは人聞きが悪いね。見ていたわけでもないくせに」
 レユスットは声を低くして、ウィラルドを鋭い視線を向ける。
 「アンナって、もしかして大聖女アンナ様が由来だったりする?」
 ヘレナは削ったガトーショコラを一口食べながらマリーへ質問する。
 マリーはヘレナの質問に頷いて答える。
 「そうなんだ。マリーちゃんは大聖女アンナ伝説の歌劇が公演されているの知ってる? あたし、役名ないけど歌劇に出てるの。よかったら観に来てよ!」
 ヘレナはマリーの顔を見ながら話していたが、レユスットが答える。
 「そうなんだね。ぜひ僕もアンナと一緒に観に行くよ」
 「ふざけた事を言うな。貴様にはマリーの隣にいる俺が見えていないのか?」
 ウィラルドは怒っているのかと思うくらいに凄みを効かせてレユスットへ荒く言う。
 「な、仲良く観に来てよね……」
 ヘレナはもうどんな会話をしたらいいか分からなくなる。
 マリーは無言で三人のやりとりを眺めている。
 (これが普段のウィラルド様? わたしと話している時と全然違う……)
 マリーは終始自分に優しいウィラルドが他の人との接し方を見て笑みを零す。
 「ふふっ」
 マリーは普段のウィラルドを知れて嬉しくなり、聖女のロザリオを握っている手を離してイチゴのタルトを食べ始める。
 「アンナって、そうやって笑うんだね。僕といる時はいつも真剣な顔だったから初めて見たよ」
 レユスットはマリーの聖女の力を搾取して辛い思いをさせていたのを自分の良いように解釈して話す。
 「見るな。貴様といるのが退屈だっただけだろ」
 視線だけで射貫きそうなウィラルドを見て、ヘレナは場の雰囲気の悪さに心の中で泣いている。
 「もうやめて……」
 終始無言もつらいが、誰かが口を開けばこのような会話になるのもヘレナにはつらかった。
 ヘレナは気を張り巡らせて、帰るタイミングを見計らっていた。
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