十秒怪談

だいだい色の着物

都内に住む伊藤さんという男性から聞いた話だ。

その年のお盆休み、彼は妻と幼い息子を乗せ、実家へ向けて車を走らせていた。

予想はしていたものの道はひどく渋滞しており、同じ白いセダンの後ろ姿を延々と見つめる羽目になった。

じりじりと強い日差しが照りつける中、後部座席の息子がトイレに行きたいと訴えはじめた。

車が動く気配はない。空のペットボトルを使わせるべきか、それとも外に出て用を足させるべきか。助手席の妻とそんな相談をしていたときのことだ。

ふと、車の真横を誰かが通り過ぎた。

車の後ろから前方へ向かって、路肩を歩いていく。だいだい色の着物を着た老婆だった。

ちらりと見た横顔。何やら大きく口を動かし、歌でも歌っているように見えたが、窓を閉め切りカーステレオを流していたため、外の声は聞こえない。

老婆は一人ではなかった。
二人目、三人目と、同じ着物姿の老婆たちがひょこひょこと軽やかな足取りで続き、全部で五人の老婆が、停止した車列の前方へと消えていった。

「何だ、あれ?」
思わず伊藤さんが呟いたが、スマホに目を落としていた妻は気づかなかったようだった。代わりに、後部座席の息子が、「おばあちゃんだったね」と無邪気な声を上げた。

それからしばらくして、ようやく車列が動きはじめた。
渋滞の原因は、凄惨な交通事故だった。大破した二台の乗用車が車線を塞ぎ、警察官たちが慌ただしく赤色灯を振って交通整理にあたっている。

「可哀想ね。夏休みの子どもが乗っていなければいいけど」

痛ましい現場を見つめたまま妻が呟いたとき、伊藤さんはふと気がついた。

先ほど前方を歩いていった五人の老婆とは、結局、一度もすれ違わなかった。どこか途中で道を逸れるような場所もなかった。

伊藤さんは、妻への返答に窮してしまったと、語った。

「五人という数が、事故の規模と符合する気がしたんです」
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