十秒怪談

顔色

Nから聞いた話だ。

彼がまだ小学生だったときのこと。図工の授業で、二人一組になって互いの顔を写生することがあったらしい。

遥か昔の記憶である。相手が誰だったか、Nの記憶は曖昧だ。篠岡だか篠崎だか、確かそんな名前の小柄な女子だったような気がする、と言う。

鉛筆でラフな下書きをし、水彩絵の具で色をつける。二時限ぶち抜きの授業で、早々に描き終えた子どもたちは席を立ち、仲のいい級友のところへ集まっては、互いの絵を品評し合っていた。

昭和の教師といえば、すぐに怒鳴ったり手を上げたりする者も珍しくなかったが、その図工の教師は自由を重んじる気風で、児童からの人気も高かったそうだ。

だからNやペアの女子も、手早く絵を仕上げると、気兼ねなく教室の中を歩き回り、「うまいな」だの「ひどい顔だ」だのと笑い合っていた。教師もまた、穏やかに教室内を巡回して絵の指導をしていたという。

やがて終了の時刻が近づき、自分の席に戻ったNは息を呑んだ。

机の上に置かれた、彼が描いた女子の絵。その皮膚のすべてが、べっとりと真っ赤な絵の具で塗りつぶされていたのだ。

留守の間に誰かが悪戯をしたのか。Nはそう勘繰ったが、すぐに違うと気づいた。

異変は彼の絵だけではなかった。周囲の児童たちも皆、自分の絵を見てどよめいている。教室内がにわかに騒然となり、やがて、クラス全員の絵が同じように赤く塗りつぶされていることが判明した。

普段は温厚な教師でさえ、異常な光景を前にひどく狼狽していた。

当然だが、対面に座る女子が描いた「Nの顔」もまた、真っ赤に染まり上がっていた。

結局のところ、その怪奇現象の原因はわからずじまいだったという。
「思い当たる節があるとすれば」と、あごに手を当ててNは語った。

当時のそのクラスには、ひどいイジメがあった。被害に遭って長い間学校を休んでいたのは、一人の女子児童だった。

「その子は全員を憎んでた」

ただ、その子の顔も名前も、Nはすっかり忘れてしまったという。
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