懲罰復讐列車(メトロ・ネメシス) ※一括掲載

特別編(前) コアラたちの闘争についてのオマケ話

 話はしばらく以前の時間に遡る。
 その日、そのとき、SWAT戦闘服を着込んだコアラは高速走行する地下鉄列車の屋根の上で、ロシア人らしき軍服の男と対峙していた。
 ついさっきネメシス号が接近した際に飛び移ったのだが、この見慣れない車両は敵対する駅のもので、空間アクセスの拠点を奪い合う抗争の真っ最中であった。ネメシス号は少し距離を置いて併走しながら、コアラが屋根に乗っている真紅の鋼鉄車両と熾烈な銃撃戦を繰り広げているところだった。
(サリーナをつれてこなくて良かった)
 コアラは作戦行動の戦術判断の正しさには安堵する。
 味方の日本の警官や陸自の服を着たアライグマやタヌキはいずれも腕利きだった。あちらの屋根の上では金属の甲冑を着込んだ鵺(ぬえ)が敵方の後方車両に機銃掃射をかけているところで、戦闘モードのネメシス号は純然たる戦闘装甲列車なのである。
 そして目の前の元ロシア兵らしき男が発射したピストルの弾丸を、コアラは鞘から抜き放ったコンバットナイフで、アッサリと火花を散らせながら受け流した。
 もう一発発射したのも同じように受け流しながら(ミリ単位の精密高速動作性!)、銃口炎の明かりの名残が消えないうちに、コアラは接近して切りつけていた。しかし迷彩軍服の肩口から血飛沫が飛んだが、決定打には至らない。
 ロシア兵の中年男が凶暴性をあらわにして、まるで鉈のようなナイフを抜く。
「俺はお前がヘイトなんだ、わかるか? 個人的にムカつくんだよ」
 コアラもナイフを構えなおして挑発するように手招きする。
「ぶっ殺してやるよ、ゴラァ!」
 彼は過去にアメリカの警察で特殊部隊員だったのだけれども、中国の共産党がコロナを撒いたせいでとんでもない目に遭わされたことがある。自分自身は日系ハーフの混血(優秀警官で表彰を受けたこともある)ながらに片親の祖母が中国系(朝鮮族の混血?疑惑アリ)・祖父が白人のクォーターだったため、暴動で復讐ターゲットになった中国系住民を仲裁・弁護しようとして、最後は怒り狂った群衆に包囲されて一緒に死ぬ羽目になった。何しろそれまでの新来華僑移民の素行の問題や赤色中国の悪行の累積があるため、もはや庇いようのない状況で投石されて血を流しながら「勘弁してやってくれ!」と必死で命乞いをして頼んでいるところを、背後からいきなりショットガンで撃ち抜かれたのだ(以前に逮捕したことで彼を恨んでいたコリアン似非牧師による私怨の犯行だった)。
 もちろん共産党から金を貰って反日・反米のロビー活動やスパイ活動をやっていた連中がいたことも知っていたし、戦時中からコミンテルンが日米戦争を焚きつけた上、原爆の技術情報まで盗み出したことも知っている(あの「ヴェノナ文書」は二十世紀の終わりには公開されていたので)。
 コアラとしては中国系・韓国系に同情はつつ、日系人や台湾系とは身内で仲良くやっていた。また、職業柄に移民マフィアや共産スパイと戦っていた事情もある(本人も出自・血縁が理由でCIAから聴取を受けたことはあるが、特に何もしていなかったので怖がる必要もなかった)。遺憾ながら複雑な世相と巨大な悪意に巻き込まれた形での殉職だった。
 ちなみに執念深く併走するネメシス号から銃撃している鵺は、前世の過去に「新時代の日中友好」「新しいアジア主義」「歴史・文献研究の自主サークル」などと美辞麗句に騙され、共産系の馬列学院(マルクス・レーニン学院)の秘密分校に連れて行かれて、あやうく極左抗日反米テロリストの破壊工作員に仕立てられるところだったらしい。ニューナンブの拳銃で狙い撃ちしているアライグマの警官は(怒りで目が据わっている)、在日朝鮮人の左翼から交番を焼き討ちにされたことがあるそうな。車両の運転役や砲撃担当の陸自タヌキたちは常日頃から左翼の自称平和活動家からネチネチ嫌がらせをされていたし、横から砲弾を渡して装填を補助している眼鏡のキツネ(技術屋)も、中国・韓国に工場進出していて現地人に裏切られ、一家で命からがら日本に逃げ帰った過去がある。
 被害者たちの恨みを乗せて、ネメシス号は今こそ「復讐の女神の化身」となっていた。
 これこそ併走する真紅の鋼鉄車両に雨アラレと銃弾を撃ち込んでいる勢いの所以である。
 ついに後方車両が機銃集中砲火による引火で爆発し、連結を切り離されていく。
 コアラがさらにロシア人の中年元兵士とナイフで切りあいしているとき、通信が入った。
『埒があかねえ、ぶつけるぞ!』
 そうこうする間に、ネメシス号が横から距離を寄せてくる。
 ネメシス号の大型のラム(衝角)が展開され、危険な重厚な輝きを閃かせる。「ラム」というのは昔の船が会戦する際、敵の船に突撃してぶつけるための破城槌のようなものであるが、そのアイデアを元にした武装であった。
(こいつは最高にキレてやがる……! だが嫌いじゃあないぜッ!)
 もう衝突まで間がない。ネメシス号は怒りのタックルでわざとぶつけてくるのである。
 コアラは吹っ飛ばされないように慌てて捕まったが、ロシア兵はギョッとしている。
 さして間を置かず、すぐに大爆音・衝突音と炎が巻き上がる。
 そして横っ腹に攻撃を受けた車両が横転し、そのすぐ横でネメシス号は停車する。
 双方から戦闘員が転がり出て、紅白両チームによる白兵総力戦が始まった。


 結局、コアラとタヌキ(陸自)一名が重傷、それ以外の全員が何かしら怪我を負った。
 ただし敵方は逃げ遅れた連中はほぼ全員を殺害してやったのだが。
 逃げた連中も大極旗を立てた山賊に「祖国の恨み!」と襲撃されて全滅したらしい。
 そしてたまたま車両接触時の転落のショックで気絶していたので捕虜にした、その中年で髭武者・小太りの元ロシア兵の素性が、水母天使宮殿駅に新たな狂乱を呼んだのである。
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