く ち な し―身代わりの恋
* * *

理が無理なら――

私は電話を切ってすぐに、夫のホテルまでどのくらいで着くのかを検索した。
今から車で行けば四時間。
自身の運転で遠出をした事のない私にとって、それは無謀な旅だった。

「誰からだったの?」

大橋が戻ってきて、私は服を身に付けながら答える。

「夫の愛人から。あの人、風呂で滑って気を失ったらしいの。救急車を呼んだ方がいいのか悩んで電話かけてきたみたい」

妻の私に助けを求めてくる女に、計り知れない無神経さを感じたものの、私は、直ぐに救急車を呼んで、夫のスマホに登録されてる秘書にも連絡を取るように愛人に伝えた。

話を聞いた大橋が、

「……それ」

私を背後から抱き締めてきた。

「梓、行く必要ある?」
< 102 / 115 >

この作品をシェア

pagetop