く ち な し―身代わりの恋
それもそうだ。
今から向かっても、秘書の山脇さんが対処してくれた後の到着になる。

浮気してた夫のケガなんて放っておけばいいかもしれない。
包み込む大橋の体温が、私の決意を揺るがしていく。
でも。

「妻の私と宿泊していた事にできるなら、そうした方がいいの」

万が一、命の危機があるなら、どっちしても向かわなきゃいけない。

「世間体か」

大橋は呆れた様に私から離れた。
その言葉と表情に胸がチクリ、とする。

「それに傷つくだけだ」

「そうかもしれない、でも今は行く事しか思い付かない」

軽く溜息をついた大橋は、車のキーを取って玄関へ向かった。

「もし途中何かあったら電話を。無理はしないで」

もしかしたら、大橋なら鹿児島まで付き添ってくれそうな気がしたけれど、甘かった。

彼にも家庭はある。
たとえ破綻していても。
そして、私は、愛してくれない夫の元へ向かう。


大橋の冷たい横顔を見ながら――……。

もしかしたら、この人とはこれが最後になるかもしれないと思った。
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