く ち な し―身代わりの恋
浮気は祐介だけを責められない。
子供が出来なかったのが原因かもしれないし、世間知らずの私では物足りなかったかもしれない。
何より、私も大橋と一線を越えようとした。
だから二人にとって離婚は必然的。

「離婚?」

私の申し出に祐介の顔が険しくなった。

「直ぐに、とは言わない。鹿児島から戻ったら話し合いましょう。とりあえずホテルに行って荷物をまとめてきます」

本当は、ゆっくり眠りたい。

「待て!」

病室から出ようとした私を祐介が呼び止めた。
振り返るのが怖い程、大きな声だった。

「離婚をして得する人間はいないぞ」

祐介の顔は怒ってる様にも見えた。


「あなたが一番損をするというだけです」

議員の妻という立場に居座り続けたいとは思わない。
仕事だって探せばあるはずだ。
けれども、祐介の考えは違っていた。

「離婚なんてしたら、君の実家の名前に傷がつく、何より」

「何より?」

「俺と別れたところで、梓みたいな無能な女と一緒になろうって男は現れないさ。今さら恋愛をするには歳を取りすぎてるしな」


屈辱的な言葉に、風邪ではない熱が上がっているのがわかった。

「……歳は余計なお世話です」

妻が歳を重ねていくのは当たり前じゃない。
それに、この数年私がやってきた事を全否定するなんて酷すぎる。

泣きそうになるのを堪えて、夫の顔を見た。

「入院手続きを済ませたら帰ります」

いつもと変わらない偉そうな夫。

「俺は離婚なんてしないからな」

横柄で自己中な宣言。
こんな人と一生、一緒に生きていかなきゃいけないのかと思うと苦しくなった。



″ 恋愛がしたいんだ ″


車に戻った途端に涙が溢れて、フッと大橋に会いたくなった。
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