く ち な し―身代わりの恋
「……」

大橋は何も言わなかった。
やっぱり聞くべきではなかった。
子供のいない私は、自分の子供じゃないと分かった時の感情は想像できない。

「梓……」

代わりに大橋はこんな事を言った。

「子供が全てじゃないし、旦那も、もしかしたら梓に対して、性の捌け口には出来ない別の愛しい感情を持ってるかもしれない」

「……それは、ない」

大橋の腕の中で首を横に振る。

「絶対にないわ」

私の事、無能な、年を取りすぎた恋愛も出来ない女だと言ったのよ?

「……そうかな」

「そうよ」

だから、もう、どうなってもいい。
私を汚さないとか綺麗事言わないで。

「夫なんか恐れないで、私を抱いて」

生まれて初めて、男性に求めた。

「別に旦那なんて怖くないよ」

ちょっとだけ眉間に皺を寄せ、不機嫌そうに言った大橋が、私に覆い被さった。

「ただ、もし離婚する時。梓は浮気してない方が有利だよ」

「浮気って、もうしてるじゃない」

「違う。セックスしたかしてないか、だよ」

「そんなの、」

ホテルに入った時点で無効。
それこそ、最後の一線を超えたかどうかなんて本人達にしか分からない。

「有利っていうのは慰謝料とか、でしょ? もうそんなのどうでもいい。私は、貴方さえ……」

大橋さえいれば――

だって。
今の私は、確実に恋をしてる。

「……梓」

大橋は、私の言葉さえも飲み込むようなキスをしてきた。
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