く ち な し―身代わりの恋
コンコン! と、窓を叩かれた。

「当て逃げですか?」

ビクッと心臓が飛び上がる。
外に目をやると、傘をさした30歳前後の男が無表情で見つめていた。

目鼻立ちのはっきりした顔だ。
窓を少しだけ開けて、消え入りそうな声で返事をする。

「逃げてなんて……」

「いや。逃げようとしてた。車や人間じゃなかったらOKなんて無いからな。公共の物壊しといて」

私は、少しだけ凹んだガードレールに視線を移した。
どう見たって事故の痕ーー

逃げ切れていたとしても、ついた塗料から特定されていたかもしれない。
我に返り、スマホで警察に電話しようとした。

「でも、議員の妻がラブホ帰りに事故起こして、一旦逃げようとしたなんて世間に知れたら大変だな」

男がこんなふうに脅迫をしてくる迄は。
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