く ち な し―身代わりの恋
ようやく二人きりになると、

「HP見たよ。だからってこんな悪戯しなくても、な」

大橋が、汚れた塀にホースで水をかけてくれた。

「そんな事してくれなくても良いのに……」

どうせ、出ていくのに。

呟く様に言った私に、大橋が繊細な笑顔で返した。

「梓が必死に守ろうとしていたからだよ、この家を」

「……守る?」

「そう」

大橋が優しい目をして言うから、涙が込み上げてきた。

私は、二人暮らしにしては大き過ぎる家を見上げる。

この十年。

私が守ろうとしていたものは何だったんだろう、と。


「壊れてしまってるのに、オカシイね」

もう、夫とはやり直せないのに。
大橋の横顔に翳りが走る。

「梓の人生の再スタートに携われなくてゴメンな」

……謝られると辛い。
やっぱり、もう、

「私とは会わないの?」

大橋は、小さく頷いた。
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