く ち な し―身代わりの恋
病院のICU室は、誰でも入れないらしい。
その前で大橋を待っていたけれど、なかなか姿を現さない。
場所が場所だけに電話も出来ずにいると、一人の看護師が中に入っていった。
「大橋さん、今日もご主人いらしてるんですね、良かったですねぇ!」
意識の無い患者にも大きな声で話しかける。
そうする事で奇跡が起こる可能性がもあるからだろう。
僅かに開いた戸の隙間から、奥さんに寄り添う大橋の姿が見えた。
「アユミ……」
奥さんの手を握り、愛しそうに話し掛けている大橋がまるで知らない男に見えた。
「早く、帰っておいで」
「……」
私は。
なんて浅はかだったんだろう。
大橋は、 奥さんのアユミさんを、もしかしたら、私の身代わりにしていたんじゃないかと写真を見て、勝手にそう思い込んでしまったけど。
本当は逆だったのかもしれない。
きっと。
私こそが、帰ってこない奥さんの身代わりになっていたんだ。