く ち な し―身代わりの恋
大橋の低い声が、耳元に響いた。

「急に、欲しくなった」

「な」

″何をー?″

言い切る前に、唇を塞がれる。
指先と同様、冷たい唇だ。

突き放そうとしても、力強く肩を抱かれて無理だった。
初めてにしては、長いキスをされる。

こんなに唇を合わせてるのに、いっこうに熱を感じさせない大橋は、同じ人間ではないみたい。

けれど。
体から、″男 ″を感じる、とても頼りがいのある香りを放っていて、初めての類いだったのに、けして不快ではなかった。
唇を離しては、再び吸われる。

その間に大橋は、

「……あ、……」

名前を呼ぼうとして止めたように感じた。

ー―私の名前は梓。

でも、教えてないし、いきなり下の名前で呼ぶわけがない。


「……身体は、目的じゃないんじゃなかったの?」

キスを終えた後の気まずさが漂う中、私は訊ねた。
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