く ち な し―身代わりの恋
「これの一番最後の歌詞が好きなの」

まるで同士に会えたみたいな気持ちになって、つい、どうでも良い事を言ってしまった。

大橋は、「あぁ……」と、曲の最後の所が流れると、そこをハッキリと歌った。
それが思いの外上手くて、つい、拍手をしてしまった。
大橋が照れたように笑う。
この人、こんな顔もするのね。

「私も最近の流行りの曲は分からなくて、車でこっそり好きな音楽を聴くの」

「こっそり? 堂々と聴けばいいのに」

「議員の妻がロックバンドのファンだなんて、ちょっとイメージ変わるでしょ? だから車から漏れないように音量も小さくして」

「大変だな」

「かといって、演歌聴く事もないし」

「あはは、どんなイメージだよ」

「そもそもね、30半ばを越えると、新しい音楽を受け入れられなくなるんだって」

「何それ。どこの調査?」

「ネットでそんな記事があった」

「ネットかよ。でも、そうかもしれない。俺まだ32だけど。既にそうだから」

食事処での沈黙が嘘の様に、展望台に着くまで私達は、友達みたいに自然な会話していた。

「上は涼しいはずだよ」

やや汗ばむ天気の中、展望台の山頂まで歩いた。

「ここには良く来るの?」

先に歩く大橋の背中に話しかける。

「いや、殆ど来た事ない」
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