く ち な し―身代わりの恋
階段を昇りきると、海の見える誰も居ない展望台に着いた。
心が一気に開放的になる。

「ここは360度の眺望が楽しめるんだ」

梅雨らしくない、 からりとした風が大橋と私を包む。
私は、(ひるがえ)りそうなカットソーの裾を押さえて、湾に浮かぶ離島や飛行機が発着する空港を眺めた。

こういう所、初めて来たかも。

風に晒されながら、大橋が私を見た。

「……髪の毛、食べてるよ」

巻かずに、整髪料もつけていないストレートの髪は、生きてるみたいに私の顔にまとわりつく。
それを、指でそっと取って耳にかけられるとドキッとした。

「今日の、あ…ずさの方が好きだ」

躊躇いがちに名前を呼んだ大橋の顔がゆっくりと近づく。
色んなこそばゆさに戸惑いながらも、私は逃げなかった。

″キス″ くらいならー―

そう思うようになっていた。
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