く ち な し―身代わりの恋
はだけたシャツを直しながら、「いいえ」と小さく答えた。
愛撫し尽くされた胸は、微かに濡れ、身体全体から大橋の匂いがして変な気持ちだった。

「″幸せを運ぶ″ 、 ″私は幸せ″、 …そして、″胸に秘めた愛″ 」

大橋は、童話でも読むように優しく言った。

「胸に秘めた……あ、クチナシだから?……」

花言葉なんて薔薇くらいしか知らなかった。
私は警戒心を何処かに忘れて、窓際の大橋の側に寄って行った。

「異説でね」「うん」

今度は、低い声で注意を促すような目をして話し続ける。

「不都合な真実を暴露できないまま、粛清させられた同志の遺族に対する将軍からの現物支給が、クチナシだったとも言われてるんだ」

「不都合な……」

「旦那さんの浮気、町の男の乱暴、全部、秘めていくつもりなの?」

「……え、」

聞いたくせに。大橋は答えを聞かないまま、今度は優しいキスをした。
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