く ち な し―身代わりの恋
髪を洗っている時、車二台が家の前に停まる音が聞こえた。
何となく代行運転車と夫の車だとわかった。
思ったより早い帰宅だ。
普段、飲んで帰ってきても、祐介は私とは絡まずにそのままソファーで寝る事が殆ど。
それなのに。

「梓」

今夜はどういうわけかバスルームに寄ってきた。

「何?」

磨りガラスから、服を脱ぎ始めた夫の姿が確認できた。

「一緒に入ろうと思って」

えっ!?

「は、入るって、お湯貯めてないから」

「じゃあ貯めながら身体洗うよ」

一体、何のつもり?

「ダメ、私、今シャンプー中だから!」

別に裸を見られたって平気だけど。

「おい、押さえてないでドア開けろよ」

七年以上ぶりに何かしようと思ってるのなら、それはとても抵抗があった。

「酔ってるの? シャワー浴びるならもう少し待って」

泡だらけの頭のまま、私は、中折れ式の扉の鍵をかけようとした。が、間に合わず全裸の祐介と対面。
やっぱり酔っているその顔は赤かった。

「ちょ、洗えないから出てって」

「なに恥ずかしがってるんだよ、アホか」

恥ずかしいとかそんな気持ちはない。

「洗ってやるから、ほら」

祐介が片手で私からシャワーを奪い、もう一方の手でボールを握り潰すかのように雑に胸を触ってきた。

「痛いってば!」

嫌悪とまではいかないけれど、愛情のない愛撫は、ただ苦痛でしかない。
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