く ち な し―身代わりの恋
あの時――
私は、おそらく濡れていたと思う。
あのまま続けていたら、私はすんなりと大橋を受け入れていたかもしれない。

馬鹿だと思う。
平気でドタキャンされる関係なのに。
そう思ったら、なんだか虚しくなってきて、

「今日はしたくないの、お願い!」

服部と大して変わらない、強引な祐介を、

「あ、おい!なんだよっ!」

全力で浴室から押し出した。
それでも扉を開けようとする力に抵抗し、鍵を回した。
それがいけなかった。

「……んだよ、人が折角(せっかく)、してやろうと思ったのによ」

ふて腐れた声を出した祐介が、ドン! と扉を叩いて去っていく。
狼から身を守る小動物のように、しばらくじっと動かずに、夫の足音に耳を澄ませる。

「TV点けた?」

TVの音にホッとして洗髪を済ませ、浴室から出ようとした。
が。

「……え」

うそ。
鍵を開けても扉が動かない。
どんなに引っ張っても、何かに引っ掛かったように扉が折れなかった。
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