く ち な し―身代わりの恋
市民会館の駐車場は、照り返しの太陽熱でうだるようだった。
エンジンをかけ、車の側で冷えるのを待っていると、

「板垣先生の奥様、真っ直ぐにお帰りですか?」

運動会の時にお茶をご馳走になった、民生委員のご婦人に声をかけられた。
この人もまた試写会に参加していたのだ。

「え。ええ……」

やだ。またついでにお茶を、って話?

「そう、よかったら家で冷たいお茶でもいかが? 珍しい和菓子があるのよ」

やっぱり……。
今日はとてもじゃないけど。無理。

「申し訳ありません、実は」

体調が悪い――
そう断ろうとしたらクラッと立ち眩みがした。

「あ、板垣さんっ!?」

婦人の短い悲鳴が聞こえ、このまま地面に倒れてしまうと思った瞬間、


「大丈夫ですか?」

低い声と共に、しっかりした力で身体を支えられた。
ゆっくりと顔をあげる。
無表情にも見える整った顔がそこにあった。

大橋だ。
何でここにいるの?

「……あ、ありがとうございます」

動揺が声を震わせた。

「身体が凄く熱いですね、良かったら病院へお送りしょうか? 板垣さん?」

不自然な親切だったけれど、

「板垣さん、具合悪かったのね! それも知らないでごめんなさいね! お知り合いならお言葉に甘えて送って頂いたら? その身体で運転は危ないわよ!」

ご婦人が、小綺麗な格好をした大橋を怪しむ事なく私を預けようとするので、仕方なく頷いた。


「ご迷惑、……おかけします」
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