く ち な し―身代わりの恋
無人の家。
古いけれど、中は綺麗に片付けられていた。

「そのスーツ、脱げば?」

入るなり、大橋が私を見て言った。

「え、何で?」

いきなり?
自然と顔が赤くなる私に、ゆっくりと大橋が手を伸ばす。

「そんな服じゃ寝られないだろ?」

抱き締めるように包んでから、そっと背中のファスナーを下ろした。

「え、待っ……」

本当に″する″気なの?

「シワにならないように掛けておくから」

夏物のレース生地のスーツは、肩から床にストン…と滑り落ちた。

「どんな姿もキレイだ……」

大橋は、目を細めてキャミソール姿の私を見つめた後、

「……え!?」

突如、ひょいと抱えあげる。

「しっかりと寝てウィルスを増殖させないこと」

押し入れから引っ張り落とした布団に私をゆっくりと下ろす。

「まだ熱い。氷で冷やそう」

大橋は、良い香りのするタオルケットをかけると、冷凍庫からアイスノンを持ってきて、私の頭の下に敷いた。

「おでこも冷やす?」

まるで子供を看病するように優しい視線を落とす。

「いいえ、これだけで……」

ここは、一体、誰の家?
この前、聞きたかった事、目を覚ましたら聞いてみよう。
額にかかる前髪を触られるうちに、再び眠たくなった。

大橋の呼吸を間近に感じると、妙に安心してしまう。
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