く ち な し―身代わりの恋
気が付かなかった。
いつの間にか大橋がこの部屋に来ていた。
とても冷めた目をしていて、怖いくらいだ。

「ごめんなさい、何となくこの部屋が気になって」

というか、この家全体が。

大橋は、私が表に返した写真立てに気が付くと、嫌なモノでも見たような顔をした。

「この部屋は触らない方がいい」

私の手を引っ張って、部屋から退去させる。

「誰の部屋なの?」

大橋は私を見ないで答えた。

「魔女の部屋……悪い女の……」

「魔女?」

そんなわけないのに大橋の氷のような目を見たら、ゾクッとした。

「愛情って、偏って深まると呪いみたいになるんだ」

大橋は、続けて意味の分からない事を言う。
呪いって、何?
あの部屋が大橋の奥さんのものだという憶測は当たっている?

「……その魔女は、今、どうしてるの?」

私は、大橋の生活感を漂わせないその理由に夫婦生活の破綻をも考えた。

「俺の帰りを待ってるかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

大橋は歪んだ笑みを見せて、掴んでいた私の手を引き寄せた。
今までにない、力強い抱擁が骨まで響く。


「約束、破るかも」
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