過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
 長くて綺麗な指だった。それでも男の人とわかるたくましさがある。彼がどんな表情をしていたのかは覚えていない。まぶたを閉じて、つぶやいていた。

「私、好きだったよ。……ずーっと、樹生さんが好きだったんだよ」

 それは、まるでひとりごとだった。彼がいるのを忘れてしまうぐらい、彼が何も言わないから、夢を見ているみたいに言っていた。

「卒業して三年も経つのに、重いよね……?」

 学生時代はとても口にすることができない思いだった。だからって、今もとても重たい言葉だ。自分の知らないところで、好意のない女から想われているなんて気持ち悪いだろう。

(ああ、眠たい……。このまま寝ちゃっていいかな)

 彼の指をぎゅっとつかんだまま、意識を手放そうとしたそのときだった。低い声が落ちてくる。

「三年は、重いのか?」
「え……?」

 まぶたをあげたら、樹生がまっすぐこちらを見下ろしていた。やけに冷静な黒い瞳を見た瞬間、我に返り、ガバッと体を起こしていた。

「私、何か言いました?」

 急に仕事モードにスイッチが入ったみたいに立ち上がり、財布を取り出した。

「先に帰りますね。駅でタクシー拾って帰りますから心配いりません。樹生さんもどうか、お気をつけて」

 一万円札をカウンターに置いて席を離れようとすると、腕をつかまれて戻された。椅子にストンと腰を落とす。そのときには、すっかり酔いが覚めたみたいに冷静になっていた。
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