過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
 それから、本当にたわいのない大学時代の懐かしい話をした。論文は思いのほか、大変だったねとか、ほかのゼミに比べたらホワイトな環境で、何を選ぶにも見極める力があるねとか、そんなこと。

 だから、三杯目のフルーツサワーを飲み終えるころには、いつもより饒舌(じょうぜつ)になっていた。

「樹生さんが選ぶものもセンスがいいね」

 今日着ているスーツだってそう。腕時計や靴だってそう。爪も綺麗に整えられていて、少し笑ったときに見せる白い歯だって……何もかもが完璧で付け入る隙がない。

「七海もだよ」
「そうだね。うん、きっとそう」

 樹生以外、好きになったことなんてない。今も、ずっと好き。同窓会に参加するって決めた選択も間違ってなかった。

 でもきっと、一つだけ後悔してることがあるなら、樹生にその思いを伝えられていないことだけだ。

「七海さ、付き合ってる人いないよな」

 酔い覚ましのウーロン茶に手を伸ばしたとき、彼がそう聞いてきた。

「私の話、聞いてた?」

 大学時代と何も変わらない生活を送る自分のどこに、恋をする時間があるように思えただろう。

 ケラケラと鈴が鳴るように笑ったら、彼の体が傾いた。そうじゃなくて、自分が顔を横に向けたままカウンターに倒れるように伏せたんだと気づいたときには、目の前の彼の指に触れていた。
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