過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
「今の話が嘘じゃないなら、七海に伝えたいことがある」

 顔が見れなかった。自分が何を口走ったのかわかっているのに、現実のものとして受け止めきれていない。頭の中は真っ白だった。

「な、なんでしょうか?」

 両腕をつかまれて、強制的に向き合った。あいかわらず、彼はポーカーフェイスのままだった。

「俺と結婚しないか」
「……は、はい?」
「七海が拒む理由はないと思うが?」
「そ、そ、そんな急に言われても」
「じゃあ、次に会うときまでに返事を考えておいてくれ。七海がいい選択をすることを期待してるから」

 うなずかないわけにはいかなくて、その場をやり過ごすためにうなずいた。樹生は会計を全部払ってくれると言ったが、結局折半した。

 もうわけがわからなかった。同じタクシーで帰宅したが、アパートの場所を知られたくないと言うと、彼が先に降りた。別れ際にも連絡先の交換をしなかった。

 次なんてない。すっかり酔いが覚めた頭で何度も考えたが、もう二度と樹生に会うことはないんだから、悩むだけ無駄だ。そう言い聞かせたが、簡単じゃなくて、気づくと朝になっていた。

 このときは、まさか、友澤ビルディングの副社長として樹生がやってくるなんて、まったく予想もしていなかった。
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