過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
第二話 絶対に裏切らない関係
***


「加賀副社長、ほかに何か質問は?」
「お願いしておきました秘書の件はどうなりましたか?」

 ハッと七海は我に返った。まだ朝礼は続いている。うっかり昨夜の出来事を思い返していて話を聞いていなかった。二日酔いのせいか、寝てないからか、頭はあいかわらず痛いが、秘書と聞けば、少しも気が抜けない。

「あー、新しい秘書を急に雇うのも難しい。うちには実質的な執行役員がいない分、優秀な秘書が三人もいるから、彼女たちの誰か一人、副社長の秘書にしようと思う」
「では、どなたを?」
「君が選んでいいよ。と言いたいところだが、人事からは小塚秘書が適任だとの話をもらっている。午後には小塚秘書の辞令が出るだろう」

 洋一はどの秘書を引き抜いてもらってもかまわないと言ったのだろう。三人に優位差はないからとの気遣いで。しかし、樹生に選ばせたら、良からぬうわさが立つのを気にしたのかもしれない。

 気遣い屋の社長らしい人事ではある。……と思いつつも、七海は背筋にたらりと冷や汗が流れるのを感じていた。いや、悪寒とも言うべきか。

(どうして私なのよ……)

「小塚秘書」
「は、はいっ」

 洋一に呼ばれてあわてて立ち上がる。

「向かいの会長室を今日から副社長室にするから、今から君のデスクは、さっきの業者にお願いしてそちらに運んで。当面の副社長のスケジュールは、加賀副社長から直接聞いてくれ」
「かしこまりました」
「じゃあ、ほかに何もなければ、業務に戻ってくれ」

 洋一が切り上げると、先輩秘書は早速、業者に声をかけて、デスクの搬出を頼んでくれた。七海も、デスクの上に乗っている書類を紙袋に急いで突っ込んだ。

(何がどうなってるの……。よりによって、樹生さんの秘書だなんて……)

 三年前は大学の同期で、会えない間はまったくの赤の他人だったのに、今は上司と部下。それだけじゃない。昨日の話、返答によっては……。
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