過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
(彼の妻になるか、解雇じゃない)

 黙々と搬出作業をしていると、樹生が目の前までやってくる。

「よろしく、小塚さん」

 手のひらを差し出されて戸惑った。触れたいけど、そんなやましい気持ちでは触れたらいけない気がする。でも、拒むのはもっと変だ。

「よ、よろしくお願いします、加賀副社長。まだ三年目ですので、至らないことがあるかと思いますが、精一杯がんばります」

 握り返される手をさりげなく引っ込めた。こんなときでも、ドキドキしてしまう自分に嫌気がさす。

(公私混同は、絶対にダメだから)

「君が優秀だってことは知ってるから問題ない。搬入作業が済んだら、早速今日の打ち合わせをしたい」
「はい。よろしくお願いします」

 真っ青な顔をしているだろうか。珍しく、先輩たちが心配そうな顔をしてこちらを見ている。しかし、プライベートな相談ができるほど、普段から仲良くしているわけじゃない。こんなときばかりは、コミュニケーション能力の低い自分を呪いながら、秘書室を出ていく樹生の背中を追いかけた。

 搬入作業は二時間ほどで終了した。午後からは全社員に向けての就任挨拶をリモートで行うから、早めに昼食を取ろうということになった。お弁当は持ってきていないと伝えると、樹生が仕出し弁当を頼んでくれた。

 まだダンボールの山が残っている副社長室で、樹生とふたり、ソファーで向かい合って幕の内弁当を食べた。まったく味がしない。思っているより、生きた心地がしていなかった。

「驚いただろう」
「それはもう……本当に」
「俺も驚いたよ。小塚さんがここで働いてるって聞いて」
「昨日、知ったんですか?」

 上目遣いでうらめしそうににらみつけるが、樹生にとっては大した牽制にもならないらしい。彼はうっすらと笑みを浮かべる。

「何か疑ってるような顔してるね」
「都合が良すぎます」
「それはそう。俺もそう思うよ。こういうの、運命っていうんだろう」
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