過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
 しかし、広沼はのり子が暮らす県外の別荘に通い、彼女の世話をしている。毎年、お歳暮を出しているが、その品に注文をつけてくるのが広沼だから、間違いないはず。彼を通じて、会議の内容はのり子に伝わっているだろう。

「今後、社長は幹部会議を俺に任せると言っている。不満を持つ部長たちもいるだろう」

 樹生の厳しい顔つきに、ああそうか、と七海は心の中でうなずいた。

 彼の敵は、友澤の親戚だけにとどまらない。あっという間に女性社員の心をつかんだ彼だが、いきなり現れた新参者の副社長をこころよく受け入れない社員もいるのだ。

「再度、資料の確認をしておきます」

 準備は入念に……ということだろう。外部から来たばかりの樹生では証明できない落とし穴があるかもしれない。

 うなずいた彼に一礼してデスクに戻ると、早速、過去の会議資料がまとめられたファイルを開いた。

 それにしても、樹生はどうして副社長になろうと思ったのだろう。いくら会長の遺言だからといっても、ケンジー・コンサルティングを退社して起業するという夢の実現に比べたら、友澤ビルディングの副社長などという肩書きはとても取るに足らないものだろう。

 ちらり、と樹生の様子をうかがったら、彼はなぜかこちらをじっと見ていた。

(な、なによ……)

 ぷいっと顔を背けたら、押し殺したような笑い声が聞こえた。
< 19 / 80 >

この作品をシェア

pagetop