過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜



「では、定例の幹部会議を始めます。みなさんご存知の通り、加賀副社長とはこれが初めての顔合わせになります。どうか、協力しながら我が社を盛り立てていってもらいたい」

 会議は洋一の挨拶から始まった。

「……よろしくお願いいたします」

 出席者たちからパラパラと形式的な拍手と声が上がるが、好意的な目は少ない。

 七海は資料を配りながら、出席者の顔色をさりげなくうかがった。この中で一番不機嫌そうにしているのは、やはり、財務本部長の本郷(ほんごう)だろう。彼は良くも悪くも部下に対する影響力を持っている。彼が樹生を気に入らないと思えば、周囲が迎合するのは目に見えていた。

「加賀樹生です。みなさん、よろしくお願いします」

 次に樹生が挨拶を済ませると、早速、本題に入った。まずは財務部長から売上報告があり、次に予算案が読み上げられた。出席者が賛同の拍手をし、いつものように粛々と会議は進んだ。

 心配していた、新副社長に対する反目感情をあらわにして対立するような役員もなく、無事に会議が終了するかと思われたそのとき、樹生が静かに手をあげた。

「本郷財務本部長にお尋ねしたいことがあります。よろしいでしょうか?」

 両腕を組んでいた本郷は、眉をぴくりと動かすと、「どうぞ」とぞんざいに言った。

「資料の七ページにあります、名北(めいほく)駅前オフィスビル再開発プロジェクトの予算に関してお尋ねします」

 樹生が指摘したページに、社長の洋一も視線を落とす。

「開業準備支援業務委託費の三百万。スタッフ研修指導員の単価が一日五万円となっています。通常、こういった費用は一日二万円から三万円が相場です。なぜ、相場の倍近い金額の稟議を通したんですか?」

 本郷は小さくあざ笑うような笑みを口元に浮かべたあと、資料をこつりと人差し指で突いた。
< 20 / 80 >

この作品をシェア

pagetop