過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
 遺言だからではなく、友澤ビルディングのために、彼は副社長を引き受けた。本気でこの会社を成長させたいと思っているのだろう。

「いいだろう。本郷本部長、会議が終わり次第、社長室に来なさい。では、今日の会議はこれまでとする」

 洋一が閉会させてため息をつくと、本郷はぎゅっとこぶしを握りしめていた。

「小塚さんの用意してくれた資料があって助かったよ。社長も説得できた」

 副社長室に戻るなり、樹生は柔らかな笑みを浮かべてねぎらった。

「ご存知でしたよね? すべて。そうならそうと、はっきり言ってくだされば、最初から用意しました」
「友澤ビルマネジメントが相手だからね」
「……私がマネジメントを裏切れるか確認したかったんですか?」
「そうは言ってない」

 言わないだけで、そう仕向けたのに。

 面白くない思いもあるが、引っかかりもある。樹生の副社長就任に不満のある親族は、友澤ビルマネジメントと関わりがあるのだろうか。

「加賀副社長、そろそろ教えてもらってもいいですか?」
「そうだな。ここでは話せないから、今夜、俺の部屋に来るか」

 なんでもないことのようにさらりと言われて、動揺してしまう。

「……こ、今夜ですか?」
「そんなに驚かなくていい。週末には引越しするんだ。先に部屋の間取りを見ておくのもいいだろう」
「しゅ、週末に引越しとか、聞いてないです」
「言ってなかったかな? 業者にすべて頼んだから、小塚さんは身一つで来ればいい。俺が迎えにいくよ」

 言い忘れるなんて、樹生に限って絶対にない。これも全部彼の計画通りなんだろう。でも、気に入らないわけじゃない。彼と恋人のように過ごせる時間が少しでも得られるなら、喜んで計画に乗ろうと思う自分がいる。

(絶対……、遊ばれてる)

 七海はわざとらしくため息をついて、虚勢を張った。

「今夜、行ってあげてもいいです」
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