過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
「七海も、冷めないうちに飲むといい」

 勧められてコーヒーに口をつけると、彼は少し間を置き、静かに語り始めた。

「亡くなった祖父には、二人の息子がいる。ひとりは俺の親父で、兄の洋一。もうひとりは、弟の善則(よしのり)氏だ」
「善則……って、もしかして、二年前にマネジメントの社長になった友澤善則社長っ?」

 すっかり忘れていた。思い返してみると、横柄な態度で社長就任の挨拶に来た男の顔が浮かんだ。

「よく知ってたね」
「たった今、思い出したの。善則社長になってから、ああいう予算立てるようになったのかな」

 もし、善則が本郷とともに水増し発注を画策していたのだとしたら、樹生が副社長になって焦っただろう。

 しかし、証拠のない話には乗れないのか、樹生は否定も肯定もせずに話を続けた。

「善則氏には一人息子がいてね、友澤宏弥(ひろや)という俺と同い年の男だ。宏弥も友澤ビルマネジメントに席を置いているが、名ばかりの取締役で、勤務実態はほとんどないだろう。富一会長が亡くなり、善則氏は息子の宏弥を友澤ビルディングにねじ込もうと思ってたようだが、祖父の遺言がそうさせなかった」
「友澤ビルディングの経営権を、そのふたりが狙ってるってこと?」
「祖父は宏弥をあまり可愛がってなくてね。俺は友澤の人間じゃないから、彼をよく知らないが、あまり勤勉ではなかったらしい」
「それで会長は、優秀な樹生さんを後継者にって考えたのね。そうは言っても、社長の息子なんだから、樹生さんが後を継ぐのは全然おかしくないと思うけど」

 樹生が後継者になりたかったかどうかはわからないが、資格としてはじゅうぶんにある。むしろ、頭を下げてでも来てほしい人材だったはずだ。
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