過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
「……そんなつもりはないけど、あんまり一緒にいるのが楽しいと、お別れするときはちょっとさみしくなりそうだね」

 口に出したら、グッと涙が込み上げてきた。ごまかすようにへらへら笑うことしかできないけど、彼はまったく笑わない。

 彼が結婚したのは、敵対する親族から自分の身を守るためで、こんなままごとみたいな恋をするためじゃない。別れるときだってさっぱりしたものになるだろうし、いらない感情を見せられたら、うっとうしいだろう。

「……あ、そういえば、まだ書類出してないんだよね」
「何の書類?」

 話をそらすと、樹生は首をかしげた。

「結婚したこと、会社に報告しなきゃ。旧姓で働けるようにしてもらおうと思ってるんだけど」
「ああ、そうだな。俺は直接、総務部長の山村(やまむら)に掛け合うつもりだから、七海の書類も俺が預かるよ」
「山村部長に直接? よかった。総務の女の子たちも、樹生さんに興味ありそうだから、結婚したことすぐに広まっちゃいそうって心配してたの」
「個人情報を広めるような社員がいるのか?」

 それはゆゆしき事態だとばかりに、真顔で言う彼には笑ってしまう。

「嫉妬は怖いんだから」
「何か嫌な思いでもしたのか?」
「え……、ああ、ううん」
「そうか。小さなことでもいいから、何かあれば言ってくれ」

 やけに気難しい顔をしている。どこで足を引っ張られるかわからないから、全方位に警戒してるのかもしれない。

「家にいるときぐらいは、仕事の話はしない方がいいね」
「そうだな。あまり休みがなくて悪いが、落ち着いたら旅行でも行こう」
「……うん」

 七海は短くうなずいた。落ち着くときは、離婚するときじゃないの? という言葉は飲み込んだ。
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