過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
第四話 秘書をやりたいんです
***


 結婚届や住民票など、結婚に伴う書類を樹生に渡してから二週間が過ぎた。

 すぐにうわさは広まって、居心地悪い思いをするんじゃないかと心配していたが、あいかわらず、女性社員の視線を一身に集める樹生は健在で、彼の秘書であることを羨ましがられる日々は続いていた。

(総務部長は結婚の情報を利用して、樹生さんに何かするような人じゃないってことかな)

 そんなことばかり考えてしまうのは、友澤ビルマネジメントの善則と宏弥の内通者が社内にいるんじゃないかと、樹生が警戒しているからだった。

 結婚した事実も、こうやって裏切り者を見つけるために利用してるのだろう。樹生はいつだって無駄なことをしない人だった。彼の行動には意味があるはずだ。

「あんまり心配してても、どうにかなるものじゃないし……」

 ひとり、エレベーターの中でぽつりとつぶやいたとき、扉が開く。七海はゆっくりまばたきをした。エントランスに、見知った男がいたからだ。

「あ、小塚っ。帰るのか?」

 こちらに気づくなり駆け寄ってきたのは、同期の島岡(しまおか)涼太(りょうた)だった。営業部に所属しているが、めざましい業績をあげているわけではない、いたって平凡な青年だ。

「どうしたの?」

 どう考えても帰りを待っていたように見える。だけど、彼とは顔を合わせれば話す程度の関係で、気安く待ち合わせたことは一度もなかった。

「ちょっと聞きたいことがあってさ。たまには飲みに行こうぜ」

 たまには……って、私的に食事をしたことはない。
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