過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
 しかし、そうじゃないのに余計なことを口走ったら、山村があらぬ疑いをかけられて非難されるかもしれない。そこまで考えて梨々子が挑発してきたなら、黙っている方がいいだろう。

 悶々と悩んでいるうちに、会食の時間が来てしまった。帰り支度を始める樹生に合わせて、ジャケットを羽織った。

「行こうか、小塚くん」
「はいっ」

 颯爽と歩く樹生についていく。その後ろ姿はどこか機嫌がよかった。

 タクシーでイベリスホテルまで移動した。上階にあるル・キャメリアに到着してまもなく綿内が一人でやってきた。柔和な笑顔だが、どこか瞳の奥に厳しさを宿している細身の紳士だ。

 樹生に紹介してもらい、七海は緊張しながら挨拶をしたが、綿内も秘書を連れてきたことには少なからず驚いているようだった。

「加賀くん、うちのマンションを借りてくれてるんだって?」
「立地もいいですし、内装も素晴らしいですから、すぐに気に入りました」

 和やかな雰囲気で会食は始まり、七海は彼らの会話を聞きながら、甘鯛のブレゼを口に運んだ。塩味と上品な酸味のバランスに舌つづみを打っていると、綿内がワインの力を借りてか、上機嫌に話す。

「加賀くん、いい人いるの? いつだったかな、洋一社長から身を固める気になってるようだと聞いたよ」
「祖父の葬儀のときでしょう。何かと忙しくて、入籍だけしました。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」

 耳を疑って、七海はまばたきをした。

(そんなに前から考えてたの……?)

「どんなお嬢さん? 同じ大学だって聞いたよ。優秀な方なんだろうね」
「ええ。普段は可愛らしいのに、仕事ではとても聡明に対処してくれるんです。七海って言うんですが」
「というと……」

 綿内の目がこちらに移る。
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