過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
 会食は終始和やかなまま、無事に終わった。また近いうちに会おうと言って帰っていく綿内を、ロビーで見送った。

「疲れただろう。今日はこのまま帰ってはやく休むとするか」

 そっと肩に腕を回されて、七海は彼を見上げる。

「あんなこと言って大丈夫だったんですか?」
「結婚したこと?」
「だって、すぐに……別れるのに」

 胸が痛むから、あんまり口に出したくなかった。浮かない顔もしてるだろう。樹生はどう思っているのか、笑みを消してしまう。

「期間限定でとは言ったが、すぐにとは言ってない」
「似たようなものなのに」

 そうつぶやいたが、彼の返事はなかった。楽しかった気分を台無しにしてしまった。

「……ごめんね。もう言わない」
「謝らないでくれ」

 肩を抱く手に力がこもる。突き放さないのは、彼の優しさだ。期間限定でもいいじゃないか。こんなふうに優しくしてもらえるのは、とても贅沢だ。

「樹生さん、もう一つ話があって」
「まだ何か不安でもあるのか?」
「あ、そうじゃなくて。今日ね……」

 七海は今朝、梨々子との間にあった出来事をそのまま伝えた。樹生は眉をひそめてその話を黙って聞いていたが、話し終えると、あごをするりとなでた。

「さっきのお話を聞いていたら、山村部長が裏切るとは思えなくて」
「友澤宏弥の入れ知恵だろうね」
「……そうなんですか?」
「ここでは話せない。帰ってから話そう」

 タクシーで帰宅すると、七海は酔い覚ましに冷たい水をグラスに注いだ。ソファーに腰を下ろす樹生の隣に座って差し出す。彼はネクタイをゆるめて、ほんの少し水を飲むと口を開く。

「親父は毎朝、ホテルで朝食を摂るんだが、そこで宏弥が女と一緒のところをよく見かけると言ってたんだ」
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