過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
 越権行為だと騒がれても、幹部たちを説き伏せる自信があるのだろうか。

「社長の秘書に戻してもらえるの?」
「七海はそうしたいのか? 俺は違う。正々堂々と結婚を認めて、七海を専務取締役にしたいと思ってるよ」
「せ、専務?」

 友澤ビルディングはオーナー企業だから、副社長の妻が専務に就くのは、なんらおかしなことじゃない。それでも、突飛な話に思えて、彼の手を離してしまった。

「嫌か?」
「あ……、嫌っていうより……」
「七海の気持ちを聞かせてほしい」

 七海はぎゅっとひざの上でこぶしを握った。どう言えば、気持ちが伝わるだろう。でも、どう言っても彼を傷つけるかもしれない。

「私、ずっと秘書になりたかったから」
「知ってるよ。大学のときからそう言ってたよな」
「樹生さんの妻として専務になるのも、すごくいいことだとは思うけど、でもやっぱり私は、秘書を続けたいの」
「続けられなくなったら、俺を恨むか?」

 社内でどんな反発があるかわからない。それは結婚前から予想できたはずなのに、それでも結婚を選んだのは、彼にとっては自分の身を守ることの方が大事だったからだ。

 今の自分も同じだろう。彼の望みより、自分の気持ちを優先してしまっている。

 離婚したら、友澤ビルディングは退職しなきゃいけなくなる。仮に、退職を免れたとしても、秘書に戻れる保証はないだろう。それも結婚すると決めたときにわかっていたことだった。

「そうなっても……、樹生さんと結婚したことは後悔してないよ」

 笑顔を浮かべてそう答えたら、樹生は片手で顔を覆い、ため息をついた。
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