過保護な偽装結婚 〜契約妻なのに推し副社長が甘すぎる〜
「最近、あんまり話せてなかったからね。たまにはこういうのもいいかと思って」
「何かあったの?」

 珍しい樹生の言動に首をかしげると、彼は小さく笑った。

「何もないから来たんだ。中に入れてくれないか?」
「いいけど……」

 二階にはサンルームもあるし、わざわざ部屋に入らなくても、と思ったが、はっきり断らないうちに中へ入ってくる。

「クッションぐらいしかないんだけど」

 カーペットの上であぐらをかく彼に、急いでベッドの上にあったクッションを差し出す。彼は礼を言いながらもクッションには乗らず、部屋の中をゆっくりと眺めた。

 何か話し始めるわけでもなく、沈黙が続いた。こんなふうに黙って、部屋でくつろぎたかったのだろうか。

 そのとき、樹生の視線がベッドのわきに置いてあった収納ボックスで止まった。ふたが開けっぱなしになっているそこからは、うちわが顔を出している。

「あっ」

 思わず、動揺した声を漏らしたら、彼は興味深そうにそれをのぞき込んだ。

「……これ」
「なっ、なんでもないっ。引越しの片付けしてたら、出てきただけだから」

 あわてて収納ボックスを抱え込む。顔は真っ赤だろう。樹生は手の甲を口もとにあてると、ククッと笑った。まるでいたずらっ子みたいな目をしている。

「すごく大事そうに抱えてたよね」
「ち、違います。こんな古いもの持ってるなんて思われたら恥ずかしいと思って……」
「どうして? 俺はうれしいけど」

 スッと伸ばした指でうちわを取り出して、彼は懐かしそうに眺める。

「……重たくないの?」
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